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熊猫的新聞(パンダニュース)~飼育係レポート~

熊猫的新聞(パンダニュース)
~飼育係レポート~

第15回 ハズバンダリートレーニング[2] 2011/12/02

 2011年9月27日から上野動物園のジャイアントパンダ、リーリー(オス)とシンシン(メス)が、ハズバンダリートレーニングを始めました。

前回の記事「熊猫的新聞(パンダニュース)──第14回 ハズバンダリートレーニング[1]」

 しかし、「ハズバンダリートレーニング」って何? と思われた方も多いでしょう。それもそのはず、まだ日本では馴染みの薄い言葉です。一部で繁殖のための専門トレーニングと報道されていましたが、それは間違いです。ダイエットのトレーニングでもありません。

 じつはハズバンダリートレーニングをひとことで表現する日本語はありません。わかりやすく説明すると「動物を長期に健康的に、なおかつ動物も人も安全に飼育するためのトレーニング」ということができます。これには「動物の生理や生態、心理面での飼育管理を可能とするために必要な行動」が含まれます。

 具体的には、部屋の掃除のためにほかの部屋に動物を追い出すのではなく自ら移動するようにトレーニングする、捕まえて体重計に乗せるのではなく自ら乗るようにさせる、爪切りやレントゲン撮影、歯の掃除といった受診のための動作をとらせるなど様々です。

 ここで重要なのは「動物が自らその行動をとる」ことです。しかもこのトレーニングは、褒めたりご褒美を与えたりしながら伸ばす訓練で、叩いたりするような罰は一切与えません。動物たちは褒められたくて、ご褒美をもらいたくて自ら行動します。

 日本でも水族館ではイルカやアシカなどに対して日常的にかなり高度なトレーニングもおこなわれていますが、動物園では、飼育動物、とくに野生動物に対するトレーニングは不自然なものとみなされ、敬遠されてきた経緯があります。
 しかしここ数年、野生とは違う動物園という環境下では、動物の健康管理やストレスを軽減する方法として徐々に広まってきています。
 ただ、トレーニングによるデメリットもあります。動物園動物を家畜のような人慣れした動物にしてしまう恐れがあることや、その動物の行動を変えてしまう可能性もあるので、トレーニングの計画を立てる際には注意が必要です。

 リーリーとシンシンは、中国ですでに、部屋への移動、体重測定、採血するために腕を出してじっとするなどのトレーニングを受けてきているので、日本でもすぐに思い出しました。

リーリー(オス)の採血練習で握る場所を直させている
シンシン(メス)の採血練習。陰部の確認もしている

 そして新たに、中国では教えていなかった「鈴の音を聞かせるとおしっこをするトレーニング」をシンシンにおこないました。目的は採尿です。新しく教えるのは時間がかかるだろうなと思っていましたが、飼育担当者の意図をしっかりと理解したようで、すぐにできるようになりました。これらのトレーニングによって採取した血液や尿は、検査にまわし体調のチェックに役立てます。今後は妊娠の可能性があるときに、超音波検査などができるようなトレーニングをしていく予定です。

シンシンのうつ伏せ練習。その後仰向けを練習して超音波検査に備える予定

 トレーニングを通しても2頭の性格の違いが現れます。シンシンは完璧思考で「こうでしょ? こうすれば良いんでしょ?」とこちらの意図を読んで動き、合っているとスカッとするくらいすぐに覚えますが、よく分からないと「だからどうすればいいのっ!」とイライラしてきてしまいます。

 一方、リーリーは「だいたいこんな感じでしょ?」とまずは大雑把に探りを入れて、あとから微調整するタイプです。同じパンダでも、こんなにも性格が違うところがおもしろいですね。
 ちなみに、この褒めて伸ばすトレーニングはうまく使うと人にも効果がありますので、よりよい人間関係の構築にぜひお試しください。

〔上野動物園東園飼育展示係 藤岡紘〕

(2011年12月02日)

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