シンシンの近況(2)
【2012/5/29】
2012年3月25日、26日に、リーリーとシンシンの交尾行動が確認されています(ニュースはこちら)。
メスの「シンシン」(右写真・5月26日撮影)の近況についてお伝えします。
1.健康状態 (※【参考】を参照)
健康状態は以前と変わらず良好です。
(1)体重:2012年5月25日現在 124kg
(前回2012年5月15日より5kg減)
目立った変化は認められていません。
(2)食欲:目立った変化は認められていません。
(3)行動:目立った変化は認められていません。
2.ホルモン値 (※【参考】を参照)
2012年5月12日までの分析結果において、目立った変化は認められていません。
3.その他の情報 (※【参考】を参照)
現在、妊娠の兆候は認められていませんが、出産を想定した準備を6月初旬より始めます。
(1)パンダ舎の一室内にオリをつくります。
双子が生まれた場合や出産しても子どもを育てない場合を想定して、オリの間から人が子どもを取り上げることができるようにするためのものです。
(2)保育器を用意します。
取り上げた子どもを人工保育する場合に備えて、新生児用の保育器を用意します。
4.今後の予定
引き続き、健康状態についての観察、ホルモン値の調査を進めます。
【参考】
◎シンシンの体重について
健康状態に変わりがなくても、与える竹の状態や体重測定のタイミングによって、10kg程度の変動が認められます。
◎ジャイアントパンダの繁殖等に関する一般的傾向について
1.性成熟
性成熟はオスで6.5~7.5歳、メスで3.5~4.5歳。
2.繁殖期
繁殖期は一般的に2~5月。秋に発情するケースもある。繁殖期には、行動量の増加、臭い付け、水浴びによる体冷やしの増加、食欲減退、恋鳴きなどが見られる。発情期間は2週間あるが、そのうち受精できるのは数日間だけある。
3.妊娠期間
交配後、83~200日の妊娠期間を経て出産する。妊娠期間は個体差がある。これは、着床遅延(※)があるためで、受精してから着床するまでの時間が1日のものもあれば数週間かかるものもある。着床までの時間によって妊娠期間が変わる。
4.妊娠時に認められる変化
(1)食欲の変化
出産の30日前頃から食欲が減退し、餌を残すようになる。出産間際には食欲が廃絶する。
(2)行動の変化
出産の15日前頃より巣作り行動が認められる。出産間際には行動が不活発になる。
(3)体の変化
出産の30日前頃に乳頭が確認されるようになる。出産間際には陰部の腫脹、乳房の腫脹が認められる。
(4)ホルモンの変化
出産前の3.7週~8週に尿中のプレグナンジオール(妊娠の維持に必要な黄体ホルモンが代謝された物質)値の上昇が認められる。出産間際にはこの数値が下がる。
5.妊娠の確認
妊娠時に認められる変化により推測するが、偽妊娠(※※)という生理現象がみられるため、確定診断は難しい。
<用語の説明>
※着床遅延(ちゃくしょうちえん)
受精卵がすぐに子宮内膜に着床せず、胚盤胞の状態でしばらくの間子宮内に浮遊し、それから着床・発育を始める現象。温・寒帯に分布するクマ類やイタチ類、鰭脚類、カンガルーなどに認められている。着床までの時間によって妊娠期間が変わる。
※※偽妊娠(ぎにんしん)
偽妊娠は病気ではなく生理現象の一種である。排卵すると、出産にいたらなくても妊娠と同じ経過をたどることが知られている。発情の後、妊娠しなくても、ホルモン値の上昇、動作の不活発、長い休息時間、食欲不振、乳頭の明瞭化、乳房の腫脹、巣作り行動など妊娠した場合と同様の現象が現れる。これを偽妊娠と呼ぶ。出産することがないまま日数が経過し、上記の変化が認められなくなって終息する。
◎ジャイアントパンダの子育て等に関する一般的傾向について
1.子どもは平均144.59±40.59gの大きさ(母親の体重の千分の1の大きさ)で、1頭または双子、まれに3つ子が生まれる。
45%の確率で双子が生まれる。
2.一般的には、子は母が抱いて育て、胸部の乳房から母乳を飲ませる。
3.繁殖期以外は単独行動をするので、子育ては母のみでおこなう。
4.野生では、木の洞や岩穴などで出産・子育てをおこなう。
5.子どもは90~120日で歩くようになるが個体差が大きい。
6.子どもは8~9カ月で離乳するが個体差が大きい。
7.子どもは1.5歳~2歳で親離れする。
◎双子が生まれた場合の子育てについて
ジャイアントパンダは双子を出産することがあるが、母親は自分ではそのうちの1頭しか育てないことが多く、残りの1頭は死亡してしまう。希少動物であるので1頭でも多く成育させたい。
最近の研究で、母親から取り上げ人工保育した子どもを母親に戻しても、母親はそのまま受け入れることがわかった。
そこで近年は双子を産んだ場合に、1頭をいったん人が取り上げて保育器で育て、その間もう1頭は母親に育てさせ、途中で子どもをオリの間から交換し、母親に同時に2頭を育てさせるという方法をとるようになった。
この方法を行うためには、パンダの子育てに人が介在しやすい構造の施設が必要となる。具体的には、オリの間から人がパンダ側に手を入れて子どもを取り上げることができるような構造が必要となる。
*参考文献:
・「大熊猫 域外保全 理論と実践」(中国で発行された書籍)
・「ジャイアントパンダの飼育 上野動物園における20年の記録」
◎関連動画
・ジャイアントパンダ、交尾を確認(→パンダムービーへ)(2012年03月25日、26日撮影)
◎関連ニュース
・「シンシン」の近況(1)(2012年05月15日)
・ジャイアントパンダ、見合いと同居と再展示(2012年03月28日)
・ジャイアントパンダを同居させました(2012年03月26日)