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ジャイアントパンダ「シャンシャン」の検疫と旅立ち(2)

【2023/5/6】

 前回の記事に引き続き、ジャイアントパンダ「シャンシャン」の検疫中の出来事についてご紹介します。

 

 無事にシャンシャンのレントゲン撮影を終えた私たちは、翌日の2023年1月31日から輸送箱への馴致じゅんち(慣らし訓練)を再開しました。動物を運搬する際には「輸送箱」と呼ばれる専用のケージに収容しなければならないので、あらかじめ中に入る訓練をおこなう必要があります。しかし、シャンシャンは以前からこの輸送箱をほとんど警戒しておらず、こちらが拍子抜けするくらいすんなりと中に入り、えさを食べたり、トレーニングに取り組んでいました。そのため、しばらくは搬出に向けた検査や投薬を優先し、輸送箱への馴致はお休みしていました。

 

 1月31日はおよそ1か月ぶりの馴致でしたが、シャンシャンはなんのブランクも感じさせずに、すんなりと輸送箱に入りトレーニングを始めました。しかしその直後、トレーナー役の飼育係の前に座った状態から、なぜかゆっくりと後ろに倒れていき、仰向けに寝転がってしまいました。その突拍子もない行動にポカンとしつつ、もう一度座り直させようと思った次の瞬間、まるでトマトのように赤くぽってりと膨らんだ「陰部」が目に飛び込んできたのです!

 

輸送箱内でトレーニングに取り組むシャンシャン(撮影日:2023年1月31日)
途中でひっくり返ってしまうようすが映っています。

 

 

シャンシャンの陰部が見える写真。赤く膨らんでいるのがわかりますか?

 

 ジャイアントパンダの発情は、陰部の形状変化、活動量の増加、採食量の減少、ホルモン値の変化などを指標に見極めます。一般的にメスは3.5~4.5歳で性成熟を迎えると言われ、すでに5歳を超えたシャンシャンに発情がきても何らおかしくありません。また、ここ最近はちょっとしたことで落ち着きをなくして歩き回り、水に浸かったり休息台の下をくぐったりする行動を頻繁に繰り返していて、いくら繊細なシャンシャンでもさすがに変だぞ……? と感じていました。これが発情によるものである可能性は十分に考えられます。

 

 シャンシャンに発情がきたかもしれない。そう推測した私たちは、毎日の観察を強化するとともに、神経質になっているであろうシャンシャンに対して、より一層丁寧に接するよう心がけました。

 

 陰部の腫脹が確認された数日後には、採食量が大幅に減る、鳴き声を盛んに発するといった変化が見られました。また、採血をして血中ホルモン値が顕著に上昇していることも確認できました。これらを総合的に判断し、「シャンシャンに初めての発情がきた」と結論付けました。

 

 最終的に2月中旬には別人(別パン?)のように落ち着きを取り戻し、採食量も一気に増え、発情はすっかり収まったようです。

 

発情が収まり、落ち着きを取り戻したシャンシャン

 

 中国返還日の決定から搬出に至るまでの日々がめまぐるしくすぎていく一方で、シャンシャン自身にも発情という大きな変化が訪れていたことがわかりました。これまでにもシャンシャンの成長をいろいろな場面で感じてきましたが、やはり順調に成育していることが確認できるのは嬉しいものです。しかし、よりによって旅立ちの直前に一皮剥けたすがたを見せてくるとは考えてもいませんでした。こういうところがカリスマパンダたる所以なのかもしれません。

 

 次回の記事はいよいよ最終回。出発当日のシャンシャンと、それを見送る職員たちのようすについてお伝えします。

 

〔上野動物園西園飼育展示係〕

 

(2023年05月06日)

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