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「シャンシャン」と「リーリー」の近況と飼育の工夫

【2021/9/4】

 今年6月23日に双子が生まれた上野動物園のジャイアントパンダですが、子どものすこやかな成長のために西園「パンダのもり」は展示中止としており、みなさまにはご迷惑をおかけしています。

 

 今回は、「シャンシャン」(メス)や現在見られない「リーリー」(オス)のこの夏のようすについてお伝えします。

 

 新型コロナウイルス感染拡大により、なかなか上野動物園に来られない方もいらっしゃることと思いますが、5頭とも元気にすごしていますので、ご安心ください。

 

1.シャンシャンの状況について

 ジャイアントパンダは中国の冷涼な山地に生息している動物のため、気温が25℃以上になる場所で長時間すごすことはできません。そのため、シャンシャンも気温の高い時期は、室温25℃以下に保たれた東園パンダ舎の室内ですごしてきました。特に、早朝から高温となる東京の夏では、短時間でも屋外に出すことが難しく、終日室内で飼育管理をおこなってきました。

 

 気温が下がるにつれてシャンシャンを屋外に出す機会も増えますが、東園パンダ舎に常駐している飼育係は気温だけでなく、採食のようすや行動、周囲の環境などを見て、シャンシャンがすごしやすい場所を総合的に判断していきます。

 

 6月12日で4歳を迎えたシャンシャンは、採食や休息などの行動パターンと季節的な変動が成獣と同じようになってきました。体重も若干の増減を繰り返しながら90kgに届き、順調に成長しています。

 

 また、東園で1頭での生活はさびしくないかと心配される方もいらっしゃいますが、ジャイアントパンダは本来、単独で生活する動物です。成獣になれば、血縁のある個体どうしもえさをめぐって縄張り争いをする関係になるので、1頭での生活はまったく問題ありません。

 

 えさはモウソウチク、マダケ、シノダケなど4~5種類のタケを、採食状況に合わせて日に3~4回に分けて与えるとともに、副食としてパンダ団子やニンジン、リンゴ、固形飼料を与えています。特にシャンシャンはタケを選り好みすることがたびたびあり、飼育係はそのたびに苦心してシャンシャンが食べそうなタケを選びなおして与えます。時には、飼料として購入したタケをまったく食べないために、園内のタケを刈り取って与えることもありますが、落ち着いて食べ始めてもらえれば一安心です。

 

シャンシャン
(撮影日:2021年8月23日)

 

2.リーリーの状況について

 リーリーは、気温の高い夏季には西園「パンダのもり」の室内展示2号室および3号室、バックヤードにある寝室ですごしています。

 

 えさはモウソウチク、マダケ、シノダケなど4~5種類のタケを、採食状況に合わせて日に3~4回に分けて与えるとともに、副食としてパンダ団子やニンジン、リンゴを与えています。

 

 上野動物園のジャイアントパンダは、例年、夏の時期に活動量が減るとともに採食量も減ります。しかし、体重はそれほど大きく変わらないことから、ジャイアントパンダが本来持っている季節による変化と考えられます。

 

 また、リーリーも含めすべてのパンダに、大なり小なりタケの選り好みはみられます。特に、夏はタケの稈(かん:幹のような部分)より葉を好む傾向があるように思えます。飼育係はこのような好みの変化を考慮しつつタケを選んで与えていますが、実は、ジャイアントパンダが何を基準に食べるタケを選んでいるのか、はっきりとわかっていません。そのため、上野動物園ではタケの成分を調べてその理由を解明しようと調査研究を続けています。

 

リーリー
(撮影日:2021年8月23日)

 

3.ジャイアントパンダ飼育係の工夫

 動物が健康にくらしていくための重要な要素のひとつが食べ物です。

 

 食肉目であるジャイアントパンダの胃や腸は、基本的な構造がほかの肉食動物と変わらないため、主食としているタケを充分に消化することができません。さらに、タケは一般的な草食動物が食べるえさと比較して栄養価も低いのです。そこで、起きているあいだは採食に多くの時間を費やしています。

 

 また、動物園では野生に比べると運動量が少なくなる傾向があるため、それぞれのパンダがバランスよく採食と休息、活動の時間をとれるように、飼育係は新鮮かつパンダが好むタケをタイミングよく与えることを心がけています。

 

 また、ジャイアントパンダはおっとりとしたイメージをお持ちの方も多いと思いますが、実は環境の変化に敏感で、聞きなれない物音や突発的な出来事に対して急に神経質になるような一面ももっています。なるべく静かで落ち着ける環境を用意することも大切です。

 

 そのためには、ジャイアントパンダの行動をよく観察することが重要です。えさの準備や清掃、消毒といった作業中も常に気にかけて観察するとともに、24時間分の行動を記録したビデオを毎日分析して、ジャイアントパンダの健康維持に努めています。

 

 このような観察と記録を積み重ねることは、不思議な生き物であるジャイアントパンダの生態を解明する一助にもなり得るのです。

 

(2021年09月04日)

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