今期の繁殖結果について
【2013/8/5】
上野動物園では、2013年7月2日より展示を再開しているジャイアントパンダのシンシンについて、今期の出産はないと判断しました。今後は次の繁殖期に向けての取り組みを進めていきます。
1.今期の結果について
妊娠・出産兆候の指標となる血液中の黄体ホルモン値の動態と、2013年7月下旬までの行動や体の変化から総合的にみて、シンシンは偽妊娠(※1)の状態であったと考えられ、今期の出産はないと判断しました。
2.判断の根拠
(1)行動・体の変化から
シンシンは交尾確認後、妊娠・出産の兆候といわれている、食欲の減退、行動量の減少、乳頭が確認できる、外陰部が腫脹するなどの状態が観察されましたが、2013年6月中旬からこれらの状態が徐々に認められなくなり、現在は平常時に戻っていること。
(2)黄体ホルモンの数値変化から
血液中の黄体ホルモンの数値変化から、2013年6月中旬から下旬に出産する可能性があると予想されましたが、7月11日に検出限界値を示してから、約1か月が経過していること。
3.2013年の「シンシン」の経過
3月11日、12日:「リーリー」との間で交尾行動を確認
5月23日:黄体ホルモン値が上昇
5月23日頃より竹の採食量が減少、休息時間が増加
5月28日頃より竹の採食量が通常の半分程度となる
5月30日:黄体ホルモンは高値を維持
6月4日より展示を中止
6月5日頃より動きが緩慢な時がみられる
6月6日:4つの乳頭が確認できるようになる
黄体ホルモン値が減少する
6月13日:黄体ホルモン値がさらに減少する
6月18日頃より竹の採食量が多い日が出てくる
動きに俊敏さが出てくる
6月20日:黄体ホルモン値がさらに減少する
6月25日:出産直前に見られる体の変化が観察されない
偽妊娠の可能性
6月27日:黄体ホルモンが低値になる
7月2日:展示を再開する
7月11日:黄体ホルモンが検出限界値になる
4.シンシンの現在の状態
健康状態は良好です。暑い日には終日室内展示としていますが、食欲や行動に変わりはありません。
5.今後の取り組み
2頭のジャイアントパンダの健康管理に努め、次の繁殖期の自然交配を目指します。
【参考情報】
◎ジャイアントパンダの繁殖等に関する一般的傾向について
1.性成熟
性成熟はオスで6.5~7.5歳、メスで3.5~4.5歳。
2.繁殖期
繁殖期は一般的に2~5月。秋に発情するケースもある。繁殖期には、行動量の増加、臭い付け、水浴びによる体冷やしの増加、食欲減退、恋鳴きなどが見られる。発情期間は2週間あるが、そのうち受精できるのは数日間だけある。
3.妊娠期間
交配後、83~200日の妊娠期間を経て出産する。妊娠期間は個体差がある。これは、着床遅延(※2)があるためで、受精してから着床するまでの時間が1日のものもあれば数週間かかるものもある。着床までの時間によって妊娠期間が変わる。
4.妊娠時に認められる変化
(1)食欲の変化
出産の30日前頃から食欲が減退し、餌を残すようになる。出産間際には食欲が廃絶する。
(2)行動の変化
出産の15日前頃より巣作り行動が認められる。出産間際には行動が不活発になる。
(3)体の変化
出産の30日前頃に乳頭が確認されるようになる。出産間際には陰部の腫脹、乳房の腫脹が認められる。
(4)ホルモンの変化
出産前の3.7週~8週に妊娠の維持に必要な黄体ホルモン値の上昇が認められる。出産間際にはこの数値が下がる。
5.妊娠の確認
妊娠時に認められる変化により推測するが、偽妊娠という生理現象がみられるため、確定診断は難しい。
<用語の説明>
※1 偽妊娠(ぎにんしん)
偽妊娠は病気ではなく生理現象の一種である。排卵すると、出産にいたらなくても妊娠と同じ経過をたどることが知られている。発情の後、妊娠しなくても、ホルモン値の上昇、動作の不活発、長い休息時間、食欲不振、乳頭の明瞭化、乳房の腫脹、巣作り行動など妊娠した場合と同様の現象が現れる。これを偽妊娠と呼ぶ。出産することがないまま日数が経過し、上記の変化が認められなくなって終息する。
※2 着床遅延(ちゃくしょうちえん)
受精卵がすぐに子宮内膜に着床せず、胚盤胞の状態でしばらくの間子宮内に浮遊し、それから着床・発育を始める現象。温・寒帯に分布するクマ類やイタチ類、鰭脚類、カンガルーなどに認められている。着床までの時間によって妊娠期間が変わる。
<過去の記事>